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SF薀蓄館

歴史SF

 歴史SFというジャンルについて考えてみた。
 SFでは、空想上の高度な科学力を背景にしている場合が多く、必然的に舞台設定は未来へ向かいがちであるが、一方、歴史小説は、例えそれが正史にせよ虚構にせよ過去の一時代が舞台となる。
 よって歴史SFというジャンルを考えた場合、”未来”と”過去”という180度反対方向のベクトルが同時に内包される。この矛盾を回避する最も簡単な方法は、前述のベクトルをねじ曲げる事、すなわちタイムトラベルである。
 この手法は大まかに2種類存在し、現代・未来人が過去へ行く場合と、過去の人間が現代・未来へやって来る場合とがある。
 前者のパターンとしては、半村良の『戦国自衛隊』が有名である。2度映画化されているので内容を御存知の方も多いと思うが、ここでひとつ問題となるのは、『タイムトラベル』の章でもご説明があった、歴史を変えてしまうという問題である。しかし『戦国自衛隊』の場合、これをパラレルワールドという形で回避した。つまり、未来からの干渉とは関係なく、元々異なった歴史を舞台にしているという設定である。
 さて、タイムトラベルのもう一つのパターン、過去から現在へやってくる話ではどうか。
 ひとつの作品をご紹介しよう。
 五味康祐の短編『一刀斎は背番号6』である。生粋の時代小説作家である筆者の、おそらく唯一のSF要素を含んだ異色作である。室町期の剣豪、伊藤一刀斎が現在へタイムスリップし、巨人軍に入団して大活躍するという痛快作だ。江口寿史のコミック『すすめ!!パイレーツ』にもまったく似たような話があるが、こちらの方は宮本武蔵である。時代的に見ても、巨人の四番を川上が打っている事から、五味康祐の方がオリジナルと思われる。

 一方、上記とは別パターンの歴史SFもある。
 例えば、豊田有恒の『モンゴルの残光』である。こちらは、フビライ帝の蒙古が世界制覇を成し遂げ、黄色人が白人を支配するという架空の未来を舞台にしている。このパターンの歴史SFは、一般的にストーリーが壮大になる傾向がある。
 もうひとつ……。これはドタバタのコメディであるが、田中啓文の『銀河帝国の弘法も筆の誤り』である。禅問答に負ければ異星人に地球を征服されてしまうという危機的状況下で、真言密教の開祖・空海が千四百年の眠りから覚め、異星人と対決するという爆笑作である。歴史要素をからめたコメディであるが、全編に溢れるSFのにおいは本物である。

 取りあえず、国内の作品ばかりを例に挙げてきたが、海外にも優れた歴史SF作品があるので、そのひとつをご紹介して筆を下ろしたい。

 『アーサー王宮廷のコネチカット・ヤンキー』を書いたマーク・トウェインは、名作『トム・ソーヤーの冒険』を書いたアメリカの著名作家である。この物語は、アーサー王の時代にタイムスリップした兵器工場の技師が、自身の科学技術を活かして当時の社会に産業革命をもたらすという奇想天外な大冒険譚である。現代社会に対する風刺も利いていて面白い作品なので、機会が有ればぜひご一読いただきたい。
   ◇◇◇
※前回のタイムトラベルに関連した、歴史SFについての薀蓄を、閉伊琢司さんに寄稿していただきました。ありがとうございました!!

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