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SF薀蓄館

方程式もの

 方程式もの(ほうていしきもの)とは、トム・ゴドウィンのSF短編『冷たい方程式』に代表される一連のSF作品群をさします。
「燃料や食料、酸素に余裕のない航行中の宇宙船に密航者が紛れ込んでいた。密航者のために人員超過となり宇宙船は目的地へ行けなくなる。どうするか?」という設定のもと、密航者の処遇を中心にストーリーが展開されます。
 ゴドウィンの『冷たい方程式』では、主人公が操縦する宇宙船に一人の少女が密航したために、宇宙船の燃料が足りなくなり、目的地に到着できないという状況に追い込まれます。そして主人公は悲しみつつも非情にエアロックの外へと少女を放り出してしまう――いわば宇宙版カルネアデスの板。全員の生存のためにひとりを見捨てるという残酷な手段なのです。
 宇宙船の速度、燃料、所要時間、重量などの要素を放り込んだ方程式の解として「密航者は排除すべし」の解が導かれたわけですが、この結末を読んで納得しきれなかった読者は多く、「少女を救う別の方法だってあったはずだ」とばかりに、条件や設定を変えた様々な変種が発表されました。この一連の作品群を総称して「方程式もの」と呼ばれるようになったのです。
 方程式ものにおける基本的な舞台設定は、以下のようなものが挙げられます。
 1)主人公は、一人ないしは少数の宇宙船クルーである。
 2)宇宙船は、必ずある目的をもって目的地へ到着しなければならない、という使命を持っている。
 3)宇宙船は、燃料や酸素や食料など必須とする物資が必要最小限ギリギリまで切り詰められて航行している。
 4)そこに密航者(想定外のイレギュラー)が現れ、計算上目的地までは航行できなくなる(燃料が足りなくなる、酸素が尽きるなど)。
 5)主人公たちは「密航者は排除すべし」の鉄則から、人道的な苦悩に直面する。
 6)試行錯誤のすえ、解法が示される。
 舞台は必ずしも宇宙船というわけではありません。状況が良く似た閉鎖的環境で展開されることもあります。また、密航者ではなく酸素漏れ等の要因によって生存可能な定員が減るという状況の作品もあります。これらの作品群は、大元の『冷たい方程式』が悲劇的結末であり、それをどうにか変えたいという思いから主人公も密航者も助かる結末が用意されていますが、さらなるどんでん返し――裏をかいてより悲惨な結末を用意している場合もあります。
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※以上、かわい洋ヘイさんから寄稿いただきました。ご協力ありがとうございました!

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